ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
通していた。多少は面白がっているようで、ときどき、ふふふっと笑っていた。
「ペンネームで書くの? 本名で書くの?」
「ペンネームだよ。薄葉影朗って」
「薄馬鹿、下郎?」
「うん。働いてた工場の近くでよく見たんだ。飛んでたんだよ。京都なんだけど。なんていうか土手みたいなとこで」
「ウスバカゲロウが?」
「いや。白鳥とか、……ウスバカゲロウとか、両方なんだ。そこに夜中にゴミとか捨てに行ったりしてた」
「京都に白鳥がいるわけないじゃん」
話が途切れた。二人は黙りこくっていた。妙な空気感があった。時間がゆっくり感じられた。けど、時計を見ると驚くほど時がすすんでいる。
多義子がしんみり
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