ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
うん、部屋からもあんま出ないな。コーヒー作りに行くぐらいで。トイレにも行くけど」
多義子は黙って窓ガラスを眺めていた。ステンドガラスのようなガラス窓を。
「あの……、死んだ亀、つついてたの?」
「何言ってんの。あたりまえでしょ。生きたまま突付いて殺すような残酷な女に私が見える?」
「でも首が……」
「首はいらないから捨てたの。ねぇ、それよりあなたって働いたことあるの?」
「あるよ。工場とかだけど」
「ふーん、あるんだ。ちょっと意外」
そう言って、多義子は周りに落ちている原稿用紙を手に取った。ごちゃごちゃと小説が殴り書きされている。
「へーえ。小説書いてるんだ。あの展望台小説に
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