ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 

 制服のスカートを跳ね上がった泥で汚しながら、無我夢中で、洋子は駆け出していた。
「何やってるの! よしなさーい!」
 ってな! 嘘だけど。

   13  退屈だし。恥辱。だが愛。だが気のせい。

「誰もいないの?」
「うん。僕だけ」
「何で?」
「みんな出稼ぎに行ってるから」
「ふーん……」
 ガチャ……、ドアノブをひねり、ギーッ……っときしみ鳴らせながら、ドアを開くと、水槽に熱帯魚が入れられてあるのがまず見える。酸素を送るエアーポンプの音だけが室内に響いている。多義子は、興味深く、水槽を、ぼんやりと、眺めていた。水車のように回転している機械があり、蒸気が出ていて、指
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