ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
逃れんがための逃避癖があった。だが、そんなことにさえ私の研ぎ澄まされた感性は天上の愉楽にも等しい激情を私の身体に及ぼしさえする。赤い仮面で端整な顔を覆い隠すと、私は生まれたままの姿で、夜の街角を徘徊するのだ。路地、私はそこで全身全霊を込めた入魂の一筆を見事な筆さばきで描き続ける。路地の壁は瞬く間に、末世の、そう、赤裸々な人間の情念で浮かび上がるのだ。

   3  清らかな私は、常に清潔でいなければならない

 雑然としたアトリエから螺旋階段を下りていくと、蓮の葉でヴェールを敷かれた純日本的な池がある。私は毎日、胡蝶蘭を投げ入れては、その池で水浴びをし、私の麗しい身体を清めることにしていた
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