ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
てしまうのだ。クライマックスが近づいてくると周りが見えなくなる。その時、そのほうけた私の姿を誰かに見られているかもしれない。一目惚れされているかもしれない。つくづく罪な男さ。幕がおりた瞬間、感激とともに私は人々を見回す。誰も私色に染まっていない、その安堵感が観劇のあとすぐさまやってくる。興奮の汗、冷や汗ともに襟首を濡らし、額から冷たいしずくとなって滴り落ちる。なぜ私はこんななのだろうか? なぜに自分の醜い部分を出せないのか、人の目ばかり気にするのか、私がやっていることは欺瞞だ。何の情熱もない、それはその通りかもしれない。だが、そんなことはないんだ。情熱は私の中にちゃんと眠っているのだ。寝ているだけ
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