ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
達してから、また、何度も推敲する気が満々のときのためにとっておこうと、男の中の無意識がそれらの体験を書こうとすることにストップをかけているからかも知れない。いや、おそらくはその、人生において貴重でものめずらしい出来事を、そのときに感じたままに、ありのままに、生々しく書く技量が男にないだけの話で、そのユニークな体験をうまく表現できずありふれたことだな、と読み手に受けとられてしまいそうな恐怖心からそれらの実体験を書くことに対して、ノートを前にして手がとまってしまっているのだろう。そしてただもう男は、尻が浮ついてしかたがなかった。
しかし、日常的にいつもやっている、たとえば自販機でタバコを買うなど、
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