ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
足らないと感じてしまうものを、書き出してしまいそうになり、いや、(俺はもっと深い悲しみや喜びや、苦悩をしてきているぞ)と、それなのになぜまたこんなつまらないことばかり書こうとしてしまうものかと、立ち止まってしまっていたのである。だが、自分の人生においてわが身に起こったいわば重いもの、重要なものは、軽々しくかけない性質のものなのかも知れない。なにかそれに見合った荘厳な文体、文章で飾りたい、軽く読み流されたくないという気持ちが働いていて、今みたいに何か、ぶっちゃけ、(何でもいいとにかく小説を書くぞ)、という気分のときには経験の中のシリアスなもの、喜びに満ちていた瞬間のことは、もうちと小説の腕前が上達し
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