ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
女なんかじゃない!」
「……黒酢、それ、……僕の、黒酢……リンゴ」
美男子にはうぶな態度を見せるのだが相手が変質者だけに、少女はキッと睨みつけると、
「眠かったから、間違えただけだからっ! 私の返してよっ!」
そう言い、混乱した頭のまま、アップルティーを奪い、いちもくさんに駆けていった。部屋に戻ると、(えらい恥をかいた、……ちがう! えらい目にあわされちゃったの!)と、さっさとそんないやなことは忘れてしまおうと、ベッドに寝転がり、枕もとの伝記本をぱらぱらとめくりだして、声に出して読みはじめた。
「え、なになに、この伝記上にあらわれる悪魔と若者は洞窟で出会いのちにたもとをわかち……」
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