ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
ていのだが、そんな男を警戒しつつ、(あの人、窃盗犯、余罪ありとかかな)などと思いながら少女が立ち去ろうとすると、男はペットボトルのキャップをくるくる指でこねくり回しながら、少女が取り間違えていった缶を持って、そのあとを追いかけていった。
 背後から、
「これあなたのアップルティーじゃ?」
 少女はとまどい、不審者から目をそらすと、自分がポケットにしまいこんでいたものを仔細に眺めて、頬を赤くし、
「え、じゃあこれは?」
「それは僕の黒酢リンゴ、僕の、黒酢リンゴ……」
 少女はしばし呆然自失となり、
「わたしそんな、変な、そんな変なの飲んだことない、わたしそんな、わたしそんな、そんな女な
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