ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
見捨てられたもののように、
「なじんじまう、なじんじまう、手になじんじまう……」
 そんなことをぶつぶつ呟きながら、ペン先までをもライターであぶり始めた。そのぐねり加減を確かめるかのように、半分あけた口からよだれをたらして、一心不乱に。何のためにそんなことをしているのか本人にもわからなかったが。しとしきりし終えると、小銭を握り締め、瞳孔をひらかせてふらふらと家を出た。誰も彼もがのどが渇きやがるから。少女がたまに外出すると近くの自販機でよくこの男と遭遇した。この夜更けにも。男は飲みたいものを選んでボタンを押しても、なかなか取りあげようともせずシャツの胸をはだけさせたりして、その辺でぶらぶらしてい
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