ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
 と、叫び、おもむろに手に取ったペンで、紙に文字を書こうとした。だがインクが紙に付かなかった。
(なぜだ? こんなに書いてもまだぜんぜん減らねえなあ、まだなみなみと入ってやがるって、ついこの前そういう感慨にふけったはずだが……)
 と、インキ壺を覗きこむと、液体がドロドロになっていた。そのありさまにいきりたってライターの炎で液状に戻そうとしていたのだが、まったく溶けず、
「なんてこったよ! 軽快に書き飛ばそうと思ってたのによ!」
 沸き出そうとしていた言葉はすでに零れ落ちてしまい、四散しくさっている。男はへなへなと、うつむいた。泣きたかった。やさしい淑女の胸もとに抱かれ。──まるで愛に見捨
[次のページ]
戻る   Point(0)