ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
に着替えると、毛布にくるまりこんだ。だがやはり女の子。どうしてもアップルティーが飲みたくなってしまった。彼女の暮らすマンションから排出される生活用水が流れ込んでゆくドブ溝に沿って、人気のないじゃり道をしばらくたどってゆくと、日陰を余儀なくされている、ぼろい家がある。集落のようにしてただ一軒。下水に何か詰まっているのか排水するたびに玄関前に水たまりができる。やがて黄ばみはじめて。その家の中に、グリップがぐにゃりとひん曲がった万年筆を、火にかけている男がいた。その男は、脳に一撃、ひらめくものがあって、インキ壺にペン先を突っこむと、
「俺は飛べる! 思うがままに! いつだって! いつだって!」
 と
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