ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
の、神がかり的な配列に幼い心が躍りだした。(これ落とした人、困ってるんじゃないのかな)と、頭によぎったが、(でもこれがあれば、今度の演奏会で、あの明美に……、あの憎っくき明美にくやし顔をさせれるんだ。賞状を手にする私を指をくわえて見ていろ!)
それから二、三度もたついたあと順調にひきはじめた。しっかりとリズムを意識しながら。窓越しの景色がだんだん翳ってゆく。ティーカップが空になり、空に瞬く光の点をじっと見ていた少女は楽譜をパタンと閉じた。えくぼを夜空にきらめかせて。もう寝る時間だ。少し上達したような気がしていて、浮かれながら服を脱いでいった。発育のよい、しかし幼い体をあらわにして、パジャマに着
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