ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
、青く澄んだ魚を女房に手渡した。女房はさっそく獲ったばかりの鳥と、魚をさばき、イモ類などと共に土鍋の中に入れ、囲炉裏にかけた。味付けは塩だけを入れた。食べ終わると老人は、
「お世話になりました。では、そろそろおいとまいたします」
 と、言い、立ち上がった。
「何をおっしゃられるんです。外はもう暗いではありませんか。今晩はぜひ泊まっていってください」
「お言葉はありがたいですが、私は夜の暗闇の中を歩くのが何よりも好きなのです。心配なさらないでください」
「あなたはいったいどこからこられたんですか?」主人と女房は戸口まで老人を見送りながら尋ねた。
「遠い国からです。かつて栄華を極めたある都
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