ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
ったんです。まだまだお乳が出ますんで、ちょうど良かったぐらいです」
 籐椅子にゆったりと女は座り、肩をはだけて乳房を出した。慣れた手つきで赤ん坊を抱くと、小さな赤子の唇に乳首を当てがって、吸うように促してやった。鍬や、弓などが壁に立てかけられてある。この家の主人は働きに出かけているのだろう。
 ゆったりとした時間が流れていた。鶏の鳴き声と子供たちの遊び声が混じりあい野外から聞こえていた。ときおり、この不意の訪問者を見に、子供たちがやってきては、立ち止まり、珍しそうに老人を眺めては駆け出していった。
 やがて、夕暮れになると囲炉裏がともった。働き疲れた主人が猟から戻り、撃ちとった三匹の鳥と、青
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