ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
とのようにいいやがって」
「いやまだ生々しく目にやきついてるから、いとしいだけさ。昔のことなら忘れちまう。だけどまだ今はまだあの女の口臭や」──変なことを口走る奴だな──「その艶かしい口から吐き出されたよ、息の暖かさが俺の頬にまだ、ぬくもりとして残ってやがるから、こびりついていやがるから……」
「寝たのか、その女と」
「……そんなこたしないよ。身ごもらせちゃ可哀想じゃねえか」
「ほう、若いのにおっさんみたいだな、おまえは」
「……それなりに苦労しているからかな(というかそんなアバンチュールな感じじゃなかったし、やるなら無理じいするしかなかったからだが、力ずくで……)」
「女はどこへ?」
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