お化け煙突とボロアパート/真島正人
だが
それは消えてなくなったわけではないのだ
たぶんあの煙は
大気中に混じり
かなり遠くまで流れている
僕たちの肺にも
必ず吸い込まれているだろう
女は
アパートの駐車場に
古い車を停めている
車の中には
「たくさんの思い出が積んである」
という
「薄汚い段ボール箱にでもしまいこんで? バックシートに?」
と僕が冗談交じりに
尋ねると
女は真剣に悲しそうな目で睨む
悪かったよ、
よくわからないけれど
僕にだって
思い出はたくさんある
断片ごとの
人間味を失った
機械のようにカチコチに固まった
思い出が
思い出の重さを
口
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)