猿ぐつわの男/豊島ケイトウ
いていて
いつの間にか私は その男を睥睨している
ばかなおとこだと毒づく
勝手も何もあったものではない
自分を何様だと思っているのだろう
この男を見てみなさい
この目の前にいる男は
猿ぐつわという桎梏を受け入れ
状況を把握する力すら 失っているのだ
私は男の涎よりも醜い涙を流す
それは男の太ももの皿を通過して
無価値にも赤黒いペディキュアを濡らす
や やめろ
と再び軒下で男が怒鳴り出す
俺が何かしたのか
ああそうか 俺は何かしたんだな
だからおまえは 俺を つまり
否定しようとしているのだな
わかったわかったわかったから――
銃声が鋭い槍のように天
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