猿ぐつわの男/豊島ケイトウ
 
に天に突き上げられた

はじめて目の前の男と眼が合いそこには
 に げ て
  き み だ け で も
と板書されていた

私は部屋を出て階段を駆け降りたものの
実のところ
もうとっくにもうどうしようもなく
袋小路に突き当たっているというのに
私は
まだ男に 名前をつけよう
などと考えている
今しがた銃殺された男ではない
すでに死んでいるのだと自覚している
猿ぐつわを噛まされた方の 男 である

名前は――
できるだけ花の響きがいい
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