それはガラスのような音がしているけれどもガラスではない/渡邉建志
 
るようだ。

割れないのでこころも割れない。穏やかだ。とても穏やかだ。凪いだ海のように。波が遠くいつまで繰り返すように。くびをかしげ、くびをかしげ、くびをかしげる。きみは、すこし考える。きみのまえにわたしはいない。きみのまえにわたしはいたのだろうか。わたしは、でもきみを見、きみに触れ、きみを聴いたとおもう。それはでもゆめかもしれないし夢でもなん度もみた。わたしはあなたの香りに包まれていた、それは、香水ではなくて、あなたの体内から発される、品のような、もので、はっきりしないせっけんの、そのずいぶんあとのような、夢からさめたときのようなにおいで、それをわたしはゆめでも覚えなかった。いまからいくねん
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