スピカ/ねことら
り入れたココア、そして穏やかな休息が必要だった
ちょっと待って、と動揺を隠して、ぼくは
バスタオルと毛布を取りに走った、それこそ全速力で
けれど、ふと振り返ったら、もう君の姿はなくて
玄関には折れたビニール傘だけ転がっていた
なにかに敗れた勲章のように
開け放たれたドアから、雨が容赦なく降り込んでいた
寒い夜
ノイズのような雨音
ノイズのような、
君のいない夜にも体積はあって
闇雲にぼくは水しぶきをあげた
弱く瞬く救難信号のように
そして泳ぎ疲れてふと立ち止まる
スクランブル交差点の真ん中で
地下鉄のプラットフォームで
どこにいても音があふれて
君の声
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)