スピカ/ねことら
の声だけが聞こえない
慣れないウイスキーを飲んで
ぼろ布のように酔っぱらって帰ってきたある夜
君の不在を悼むように
ぼくは残していったヘレンケラーの伝記のページを繰った
カラフルな蛍光ペンの跡が
君の調子外れの歌のようで
なんだかあたたかくて泣きそうになる
本の終わり、最後のページの余白に
見覚えのない走り書きを見つけた
毛虫の跳ねたようなくせ字、君の字だ
前に見せてもらったときには
書かれていなかったはずのそれは
数行の短い詩のようで
誰に宛てられたものかもわからない
やさしいメッセージだった
声に出してなんども読んだ
今度は少しだけ、泣いてしまった
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