真夜中、もやのように消えた昨日までとハエトリグモの文学性に関する考察/ホロウ・シカエルボク
夏
俺は暗闇の中で考えごとをする
もやのような昨日までが
流れてゆくのを眺めながら
俺にはなにも見送る資格などない
消えてしまう昨日しか
手にしたことのないこの俺に
電灯の笠のあたりから
ハエトリグモガ降りてくる
レスキュー隊の降下訓練のように速やかに
俺の頬の脇に降り
二、三度方向を修正して
カーペットの隅に何事か調べに行く
と
思ったら
やつは俺の方に向き直る
「またなにかくだらないことを考えているのか?」
余計な御世話だ
と
俺は答える
「死んでもいないのに死んだみたいなことばかり考えやがって
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