真夜中、もやのように消えた昨日までとハエトリグモの文学性に関する考察/ホロウ・シカエルボク
人差し指はきちんと握りこまれるだろう
俺は考える
死もやはり
ひとつの意志なのだと
どんな結末であれ
「もういい」と
思った時
その時が
死なのだろうと
幼いころ
夏に死んだ
優しかった人のことを思い出す
一度だけ
病室で
お土産の蜜柑を
にこやかに受け取ってくれたひと
名前も知らないままだったけど
あの人が死んだことは
時々確かなこととして思い出す
死ねるやつから死んでいけって
油蝉が泣いていた
死ねるやつから死んでいけって
なにかの解放運動みたいに
同じ夏だったけど
少しだけ違った夏
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