日本橋浜町のひと/恋月 ぴの
 
しまったとか
それなりの言い訳を私のなかに探し出そうとする

改札を抜けA2出口を地上に出れば浜町公園
隅田川を渡る初夏の気配はこれから訪れるであろう過酷な季節へのプロローグとも言えそうで
汗を拭いつつ明治座の建物を仰ぎ見る

観劇の予定でもあったのだろうか
それとも隅田川沿いをひとり思い巡らせながらそぞろ歩くつもりなのだろうか

汗かくのさえ厭わなければ馬喰町まで徒歩でも僅かな道程だから
強いられての休日出勤なのかも知れない

ちらり程度しか見えなかったけど昔と変わらず綺麗だった
私の大切な彼を奪ったひと
そして愛憎の果てにお嬢さんを奪われてしまったひと

因果
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