済州島4・3事件へのオマージュ/はらだよしひろ
 
い出がありません
  父とは海辺遊びに他ならず
  海辺遊びを思い出しては
  「お父さん」と涙する齢を重ねていました

  老は三年前に亡くなりました
  口は閉ざされていただけでなく
  一日に一度は幼子の名を
  呼んだといいます

  老は幼子の名で九十一の齢を
  まっと寿う出来たのでしょうか

  我が子よりも愛しい姪御に
  閉ざした口を解き放てたのでしょうか

  幼子は老の訃報に号泣しました
  もう、口は閉じたままです

  かえせば 父の亡骸を埋めたのは
  老です と
  老と共に島を離れた と
  幼子は聞き及びましたが


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