済州島4・3事件へのオマージュ/はらだよしひろ
 
かったのです

  それだけに 祖国の軍隊によって
  死体だけが重なるだけの
  火山島は口を閉ざしてしまいました

  嘗て 天女が宿ると言われた
  頂きに 人々がハルラと名を
  付けた誇りも古(いにしえ)と
  残された人は縁を探すのも止めて
  涙も頬を伝わらなかったと言います

  ――あれから――

  ある者は 続けて島の幸で暮らしを立て
  ある者は 島から逃れたと言います

  中には閉ざした口に耐え切れず
  数年後、いや数十年後に狂って
  死んだ女の人がいます
  閉ざした口に天女は宿らなかったのです

  幼子には父の思い出
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