辞書をめぐるお話 最終話/たもつ
海の歌声を
荒れ狂う海の怒りを
魚の呼吸を
書き続けた
異国の地は
知らない言葉だらけだった
少年はそれらの意味を
身振り手振りで尋ね
ノートに
書き連ねた
少年は何度も
同じ地を歩いた
言葉は変る
時には緩やかに
時には
加速度を増して
一度書いたものを
何度も書き直した
その間故郷では
父親が土になった
それを知ることもなく
少年は
いつの日か
青年になっていた
そしてある日青年は
恋に落ちた
青年はノートを
ひっくり返して
自分が記した
美しくて
綺麗な言葉を
手紙にした
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