辞書をめぐるお話 最終話/たもつ
したためた
女は
手紙を読むと
青年の目の前で
丸めて捨てた
青年は何度も何度も
手紙を書いたが
その度に
手紙は捨てられた
どうして
どうして
こんなに綺麗で美しい
言葉なのに
女は言った
あなたの手紙はまるで標本のようね
青年は
その意味を考えた
旅に出て初めて
青年はその日
ノートに言葉を
書かなかった
青年は
考え続けた
街で
森で
船の上で
異国の地で
砂漠で
戦場で
そして青年は
決心し
すべてのノートを
焼き捨てた
今、青年の胸の中には
一つの言葉が
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