樹を植えた男/新守山ダダマ
 
男がいた
今から100年ほど前 フランスの山奥で
男は一人息子を失い 妻にも先立たれ 一人山奥へ引きこもったのだ
男はそこでひっそりと余生を送るつもりだったのかもしれない だが気づいたのだ
荒れ果てた土地で彼は知った 自分だけの孤独じゃない この土地の孤独を
この死んだような不毛の地に せめて良き伴侶を持たせたい
そして男は木を植え始めた それは自分の心にも木を植えることだったのかもしれない
その土地の周辺に住む人々の心は荒れていた 木がなかったからだ
誰もが孤独で いがみ合いや 自殺が絶えなかった
そんな中で男は黙々と種を植え続けた
自分が生きているかさえわからない遠い将来の
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