イリュージョン/済谷川蛍
えていた。目の前で友達が死んでしまったかもしれず、さらに床の間の縦約60cm横約2mの範囲以外は全て底知れぬ真っ黒な穴であり、たとえあの入り口のドアが開いても、とてもそこまで飛び移れる距離ではない。つまり、絶望的なのである。腹の辺りに風穴が開いたような、そんな気持ちである。
「ヨシミー!」とヒロキが穴に向かって叫んだ。ヨウスケも泣きじゃくりながら、必死に呼びかける。しかし返事は無い。声が届かぬほど穴が深いわけではあるまい。ヨシミの意識がないと考えるのが自然だ。ヒロキは頭を抱えた。もう涙をこらえることは出来なかった。家のことを思い出し、わんわん泣いた。ヨウスケもヒロキが泣くのを見て、さらに哀し
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