イリュージョン/済谷川蛍
らかがその言葉を出すのを恐れていた。でも彼は素直にごめんと謝れる性格ではなかった。彼はただ黙って、床の間の掛け軸の絵を眺めていた。鯉が滝を昇る図柄で、特に怖いものではなかった。
「ヒロくんごめんね」とヨシミが言った。「わたしがこのドア開けてって頼んだんだよね」
ヒロキは、自ら責任を負おうとするヨシミの性格に胸を打たれた。そして、自分が情けなく感じた。でも何も言えなかった。しばらくしてヒロキは部屋を詮索した。窓は無い。四方は全て壁に囲まれている。必然的に、床の間に向かった。ヒロキはまるで何かに導かれるように、掛け軸をめくってみた。そこに、実に意外なものを発見して、声を上げた。
「な
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