イリュージョン/済谷川蛍
 
、彼らが二年後に解くはずの問題だ。しかしヒデトが塾で使っている問題集には、その問題がかろうじて載っていた。まだ塾では習っていない。ヒデトは焦った。「ちょっと待ってね」。ノートに「9分の6プラス」と記入する。そしてカバンから問題集と参考書を取り出して、分数の計算の項を開いた。「いいよ、続き言って!」
 今度はヒロキが代わった。「えーと、5の下に8があって……」と言いかけたところでヒデトが珍しく強い調子で言った。「それは8分の5って読むんだよ!」「うん、わかった。じゃぁ8分の5マイナス……」「待って!」とヒデトは叫んだ。「異分母分数で、足し算と引き算が混合する式だなんて……」ヒデトは顔を青くした。
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