イリュージョン/済谷川蛍
 
ルほど先の天井に、非常口の電光表示板が明滅していた。ヒロキはおそるおそる聞いた。「ねぇ、2人とも泳げる?」2人は「うん」と応えた。「あたし25メートルくらい」とヨシミが言って、「ぼくは30メートルまで泳げた」とヨウスケが言った。「ヒロくんは?」
 ヒロキは15メートルしか泳げなかった。しかも息継ぎ無しのクロールである。ヒロキはどうしても息継ぎクロールの原理が理解できなかった。どうしても、息継ぎのときに鼻と口の中に水が入ってしまう。先生は、「パッと息を吐くんだ。そうしたら身体が勝手に息を吸うから」と説明するが、それではまだ息継ぎ無しのほうが遠くまで泳げるとヒロキは思っていた。しかも、あの水中のボ
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