イリュージョン/済谷川蛍
 
み、胸の辺りにまでなったときに、やっと立ち止まった。
 「どうする? 戻る?」
 2人とも何も応えなかった。ヒロキも何も言えなかった。そして、なんとなくペンライトを壁に向けたとき、偶然にも、この暗闇から抜け出す道標を発見する。壁には、ところどころ剥げかけたプラスチックの板が貼られていて、それには、右に向いた赤い矢印と、その下に、「出口」と書かれていたのだ。3人は同時にそれを目にして、思わず歓声を上げた。「ねぇ、もう少しだ。進もう」ヒロキの声に、うんっと2人は応えた。
 しかし、もう少しでは無かった。首の辺りまで水が浸かり、もうこれ以上は泳いでいかなければならなかった。だが20メートルほ
[次のページ]
戻る   Point(1)