春のまぼろし/黒木みーあ
 
、また歩いている。角を曲がる。空き家の庭の中、梅の木が立っている。死にそうな、あたしに負けないくらい、細い、からだ。指先に紅色の、春を、僅かに巡らせている。脈々と、脈々と。そんな風にしてあたしは道を、戻っている。また、戻って、いる。
(( 立ち止まる。さきっぽの折れた、枝垂れた桜。しゃがみ込んだ細い、後姿が目の前で、静止する。止まったように、血が、引いていくのがわかった。頭から突然に、よろめく。手をかける、ものがない。

桜の淡い、花色に似た、民族刺繍。ホルターネックのサロペット。
もうひとりの、あたしの、後姿。

   *

目の前で、立ち上がる。桜の、小枝を手に、持ったまま。水
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