春のまぼろし/黒木みーあ
 
える。母の、声はいつだって、いつだって笑っていた。確かなもの。陽だまりの中では、母の声、は、

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―――お腹が空いたなら、道に生えている花を食べます。
意外に美味しい、花の蜜。は、ささやかな、生きている喜びを、晴れている時にだけ、時々、くれたりもしました。幼い頃の、帰り道、暮れていくのは日だけでは、なくて、焼けていく空には、わたしの亡霊が束になって重なって、いつも一緒に、燃えていました。散りじりに、裂けて消えていく雲の、姿。巡る、血の色。人であるように、わたしも、ほんとうは安心したかった。

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遠くへ、歩いていたはずの、あたしは何故か、さっき歩いてきた道を、ま
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