ウイリーの風/剣屋
 
自分に似た人間が父親を殺しかける時の心情や表情を想像することができない。話を聞かされても伝わってくるのは醜い男の娘に対する巨大な執着だけである。その執着が今夜この瞬間キリコに重ねられている。醜い男の話しを聞いて、ひどく気が咎めた。慈しみに溢れた掌で男の唇を優しく覆い続けることしかできなかった。
 これまで口を閉ざしていたナナメが眼を眇めて、おもむろに言う。
「おっさん。単車に乗ったことはあるか?」
「…………」
「キリコ。おまえのニンジャちょっと借りるぞ」
 ナナメはまるで白骨死体が突如として目覚めるかのような動きで立ち上がった。息は切れ切れで今にも卒倒しそうな状態である。
「ちょっと
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