ウイリーの風/剣屋
 
全く曇っていない。キリコとゼロの兄貴分としての責任がそうさせているのだろう。困難から逃げるという選択肢を排除した男の気迫が漲っている。
 ナナメの操縦する旧式のハーレーは、アメリカ西海岸の凄腕のバイカーから譲り受けた代物で、尋常ならざる改造が施され、まさにバケモノ級のマシンと化している。有名なモーターサイクル雑誌に表彰された逸品だ。ハーレーは風を切りながら徐々に加速していき、ジープ・チェロキーへと迫る。その距離およそ残り三十メートル。
「やるしかないな」
 ハーレーの前輪がわずかに浮かび、傾斜角10度。更に浮かび、傾斜角20度。もっと浮かび、傾斜角30度。遂に傾斜角40度ほどを保ち完璧なるウ
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