くすんでないくすんでないくすんでないぞ/真島正人
 
いのだ、
助けてくれと
私の隣で着替えている最中だった
中年の男が慌てふためき
はきかけのパンツにもつれて
無様な格好でもんどりうって
倒れた

彼の皮膚から血
彼の
鼻からも


更衣室の床ににじむ
少量の血液
まだ
鉄の匂いはしない

幾人かの
無関心な人々

幾人かの
好奇心の人々

幾人かの
そのどちらでもない人々

と、
それから

またふいに頭痛が去って

少なくとも私の口は
「沈黙」と対峙しない

私は逃げるようにこそこそと

更衣室を抜けて

耳たぶを少しだけ触る

私は子供の頃
耳たぶの柔らかい
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