こいびと/はるな
 
たみたいに、すべてがまるで本当じゃないみたいに、きれいに流れ去った。まつげの角度なんて、指の温度なんて、触れ合った動きなんて、そこになかったみたいに。何色のシーツだったかもわからないよ。それなのにあなたは泣いたね。わたしは窓を見ていた。窓のそとに見える道路や、建物や、街灯をみていた。それらはわたしのものじゃなかった。窓のこちら側の、茶色い窓枠も、ギターも、青い小人たちも、さめていくコーヒーも、火をつけたばかりの煙草も、なにもわたしのものじゃなかった。わたしの指も、つめも、髪も、脚も、皮膚のぜんぶ、髪の先まで、わたしのものじゃなかった。もちろん、あなたも。
 抱き合ったときのここちよさや、世界のす
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