こいびと/はるな
くっきりと覚えている。正確に思い描ける。その骨のかたちも、関節の仕組みも。
あなたの部屋にあったもののことも、とてもよく覚えている。そこにあった空気も、湿度も、視線の温度も。すぐにわかった。他のひととは違うこと。すぐに好きになると思った。そしてすぐに好きになった。ギター、甘いコーヒー、積み上げられたディスク、笑えないコメディ映画、ファイヤーキングのガラスの模様、青い小人の人形。その横でただしい温度で笑うあなたのこと。茶色の窓枠、すこし短いカーテン、きれいなかたちで燃え尽きるたばこ、すぐに溶けてしまう氷、わたしたちがいつも汗ばんでいたから。部屋からは道路と、建物と、街灯と、わずかな空が見えた。う
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