針刺して/佐々宝砂
夜な夜な通う男があった。
おのれとは不釣り合いな貴人であると思ったから、
娘は誰にも告げなかった。
幾山越えて川越えて
林を抜けて森抜けて
夜な夜な参る者の名を
ちちはは知らずたれ知らず
されど
やがては知らるるものぞ
気付いたのは母であった。
あの男は誰かと訊ねても娘は答えなかった。
知らぬのであるから答えようはずはない。
山の向こうから森を通ってやってくるのだと、
ただそれだけをようやくに呟いた。
やがて他の者も気付いた。
腹が膨れてきたのでは隠しようがない。
せめて男の住まいがいずこかだけでも知りたいと、
母の智恵は娘に針を持たせた。
糸通した
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