船/鈴木陽
水と塩がその下に埋積され、鈍い重力が同時に船を生かす浮力にもなった。波先から切り離され細かい粒子となった冷たい飛沫だけが風に運ばれ、帆を濡らした力のある生臭い匂いを、ぞんざいに扱うこともできる言葉となった我々はここで、甲板から海中を透視する。甲板として葺かれている細長い木片には小さい字が間隔を置いて書かれている。文字はこの船の名を表明することではない。列ではないだろう。単語にすらなりはしないだろうその文字は意思を持っているから、甲板の上で孤立していると思える。しかしながら、我々は離散した文字をある法則によって並べられているとして読み変えることは出来、それこそが自由として与えられている事実は同時に、
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