船/鈴木陽
 
いる。快適でも不快でもなかった。船首に向けて軽く持ち上がる甲板にはなだらかな勾配がある。十字の取り付けられた舳先から鋭利に海中に没する船が波を消す、停滞している。そこは水に長い間没しているから、海藻は船の底へとびっしりと取り付いていて泡立っている、そこで揺れて食う塩を排泄する硬骨魚の類の鱗が青みを帯びて緑に光っている。小さく刺さっていく魚影の集合はこの船に良く似ているかもしれない。それらは鋭く交わり、定位しつつ定位しないものであって、そしてそれらが良く見えるようにこの船は設計されているのだろう、と我々が判断する、海面と海抜零地点の接合面としてある船だ。その境界はどちらにも属してはいないから深い水と
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