船/鈴木陽
 
ない。そうすることによって、この船は彼を船員と認めるからだ。曲線は本棚を自由に回遊し、そして次の背表紙へ繋がっていく。古びた日誌にはいくつもの修繕された跡がある。そしてそこからは、別の日の日誌が始まっていることが多かった。そして日誌たちが裂かれただろう日はどれも別の日誌に律儀に赤く書かれている。粗雑に扱われる日誌たちが書庫の棚に簡単に置かれていることは、本の複製がこの書庫のどこかに眠っていることを示していた。

船の頭上は青く晴れていて、白い雲が点在する、そんな潮風が吹いているとしよう。船の後部から舳先へ向けて空気が流れる様子は触覚を通して理解されるものだ。湿り気の強い風は同時に蒸発もしている
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