船/鈴木陽
 
置する鳥が、海を睥睨してはその呼吸を整えている。造化された十字の下で、風を切る鳥の羽の枚数を数えながら我々は見透かされたような気分で波に揺れている。

船はひとつの書物であり、また乗員もそれぞれの書物であるから、この船の内部に精密に保持された直方体の空間は書籍の入れ子構造をとっている。しかしその二つのものはどちらかが優位であるというわけではなく、むしろ相互に関連付けられている限りで、あるいは位置関係の強調する表面における空間力場、木目のあるいは視線に方向付けられた磁力によって相互に被覆され、乳白色に交じり合った結合しているそれは、木目の詰まった良質な古い材木によく見られる光沢を持っている。しか
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