沁みていく春/あぐり
(のどのおくにフォークをつきさそうとしたあのしゅんかんのつめたいひかりをわすれない)
2010年
やさしく縛られてから六回目の春で
ずっとずっと
傷が残っていないとすべてが嘘だった
もうわたしには狂うしかないのだと
そんなことを毎晩想い続けて
ただしい眠り方を忘れてしまった
すこしずつ
わたしのなかに海が沁みてくる
2010年
白い線を刻んでから五回目の春で
とてもとてもふかいところでつながるわたしの親友にも
見せられなかった肌があつかった
洗面所の鏡と浴室の排水溝にながれていくのは
ちいさなわたしの欠片たちで
いちにちのなかの唯一のたべもの
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