鏡の国からの強迫/佐々宝砂
 
昨日を映す鏡がある。
鏡の中の私は
コーヒーカップ片手に
煙草をくゆらしている。
煙草の煙が文字を描く。
危険
と読める。
昨日の私はいらただしげに
カップを持っていない方の手で
空気をかきまわす。
煙は消えない。
消えないで
今度は
不可能
という文字に変わる。
その文字に背を向けた昨日の私は
テレビをつける。
青白い画面に
私が映っている。
テレビの中の私は
スクール水着を着ただけの姿で
氷山がいくつも浮かぶ北海を
泳いでいる。
冷たい海水をかくてのひらは
もう赤く腫れている。
そのてのひらが
氷山の一角に触れる。
てのひらが
氷に貼りつ
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