鏡の国からの強迫/佐々宝砂
 
りつく。
泳ぎ疲れた私の
視線の向こう
閉ざされた氷のなか
目を閉じて眠っているのは
私。
氷に縛られた私の
夢のなか
絶壁をよじ登る私がいる。
道具はなにひとつない。
指の爪は
すっかり剥がれている。
その指で
無謀にも
岩をつかもうとして
つかみそこね
落ちてゆく。
落ちてゆく私は
氷に閉じこめられた私に激突し
凍りついた私ごと氷を砕き
砕かれた私の破片は
泳ぐ私の胸に穴を開け
泳ぐ私の血潮は
テレビを見る私を赤く染め
血だるまになった私は
うらめしそうに
鏡の外の私を見る。

戻る   Point(4)